学術変革領域研究「超秩序構造科学」の発足にあたり

領域代表:林 好一(名古屋工業大学)

科学技術立国を目指す日本において、材料科学は国内屈指の得意分野の一つであり、世界の科学界を牽引してきました。しかしながら、近年、アジア諸国の台頭によって、その存在感は急速に失われつつあります。このような状況を脱却するためには、現在でも世界最高水準レベルである分析・解析技術に立脚し、未開拓であった材料科学分野への挑戦が重要だと考えています。
 様々な材料における機能性の根幹は、母物質と添加元素(ドーパント)の組み合わせによる協調・協奏現象と言っても過言ではありません。そのような中、前プロジェクトの新学術領域「3D活性サイト科学」で代表されるように、結晶中のドーパント解析など欠陥の科学も進展し、その理解も大きく進んできました。
 そして、学術変革領域「超秩序構造科学」では、その先のサイエンスを開拓し、世界トップを目指します。我々の有する高度な量子ビーム技術を用いれば、異種元素ドーパントや空孔から構成されるナノ構造体を発見でき、実際にその観測例がいくつもあります。これらは周期表にない新元素とも見なすことができ、添加元素の組み合わせや立体配置の自由度により、新次元の機能性を創出できると考えています。
 本変革領域のもう一つの方向性は非晶質材料への展開です。非晶質中のドーパントの解釈は、結晶で用いられる置換または格子間サイトなどと呼ぶものほど明確ではありません。もともと原子配列の乱れている非晶質では、そのようなサイトの定義が難しいためです。そこで本領域ではトポロジー解析を用いて、その体系化に取り組みます。また、ガラスの物性は、トポロジー的に特徴を抽出できるナノスケール秩序、すなわち、「超秩序構造」とも相関があり、その理解はガラス材料開発の今後の指針にもなる筈です。
 このような「超秩序構造」は、誘電体や機能性ガラス、ゼオライト、超伝導体、生体材料等の幅広い材料群に存在しており、まさしく材料機能性の宝庫とも捉えられます。理論的には、「超秩序構造」の機能を解明できる大規模第一原理計算、効率良く「超秩序構造」を探索できる材料機械学習などが重要な役割を果たすと考えています。
 ここに我々は、「超秩序構造」を正確に決定できる計測、深く理解するための理論、構造制御のための合成プロセスを融合した学術変革領域「超秩序構造が創造する物性科学」を立ち上げ、材料開発に新たなブレークスルーをもたらし、日本科学のプレゼンス強化に貢献します。